整備士としての“勘”が冴えた日の話
「あれ?なんかエンジンの調子が変だな…」
整備士を長くやっていると、ときどき「勘」がはたらく瞬間があります。
誰にも説明できないけど、なぜか「おかしい」と気づいてしまう。
今回はそんな“神がかったトラブルシュート”が決まった、忘れられない一件について書いてみます。
あれは、ある大がかりな修理の現場でした。
エンジンを車体から降ろすという、大がかりな修理
ある日、持ち込まれた車両。
状態を確認すると、どうやらエンジン内部に深刻な不具合がありそうだとわかりました。
通常の整備作業では対応しきれず、エンジンを一度車体から降ろす必要があると判断。
整備士にとって、これは一大イベント。
なにしろ、100点近い部品とボルトを外し、順序通りに管理して、あとで正確に戻さなければなりません。
無事に原因となっていた部品を交換し、再度エンジンを車体に搭載。
すべて丁寧に、慎重に進めてきたつもりでした。
問題は治った。でも、どこか調子が悪い
エンジンを取り付け、いざ始動。
問題のあった部位は確かに治っています。
異音もない、オイル漏れもない。
でも、何かがおかしい。
整備士として体に染みついた「音」と「感触」が、うっすらと違和感を告げてきます。
「なんか吹けが重いな…」
「電圧系の反応が鈍い気がする…」
数値で明確に表れるわけではないけれど、何度も車を見てきた“感覚”が反応していたんです。
100点の取り外し、でも取り付けは99点かもしれない
取り外した部品は100点近く。
当然、取り付け時には1点でも欠ければ症状が出る可能性がある。
「もしかして、何か付け忘れてるのか?」
「トルク管理は間違ってなかったよな?」
「配線、センサー、どこか外れていないか?」
焦る気持ちを抑えながら、ひとつひとつ確認していきました。
でも、見た目には問題がない。
それでも、「違和感」がどうしても消えない。
そこで、電装系に何か異常があるのではと考えました。
ふと、ある確認方法を思いついたんです。
テスターで1V弱。違和感の正体は“アース不良”だった
エンジン側のボディにエレキテスターのプラスを、
バッテリーのマイナスにマイナス端子を当ててみると——
1V弱の電圧が表示されたんです。
「…あれ? これはおかしい」
通常なら、電位差は限りなくゼロに近くなるはず。
この電位差は、「どこかのアース線が正しく接続されていない」可能性を示していました。
つまり、電気が正しく流れず、“車全体が微妙に元気を失っている状態”。
整備書を取り出して、アース線の位置をもう一度確認。
すると、見えにくいフレーム裏側にアース線が一つ取り付けられていないのを発見しました。
「あった…!」
思わず声が出るほどの安堵感。
早速そのアース線を適切な位置に固定して、再度始動。
エンジンが蘇る。その瞬間、背中で伝えられたもの
キュルルル…ボンッ!
エンジンが一発でかかり、今までとはまったく違う吹け上がりを見せました。
「これだよ、これ」と、心の中で思わずガッツポーズ。
作業を見守っていた後輩がひとこと、
「…こんな発見の仕方、見たことないです」
と、驚いた顔をしていました。
そのとき、僕は、”説明しきれない気づき”を、背中で伝えられた気がしたんです。
整備士の勘は、魔法じゃない。
膨大な経験、観察、記憶、そして“機械に向き合ってきた時間”がつくり出した直感。
整備士の“勘”は、知識と経験がつくり出す芸術だ
この仕事に正解はないかもしれません。
でも、「違和感に気づけるかどうか」が整備士の力量を左右する。
そしてそれは、年数や資格以上に大切な“現場力”だと僕は思っています。
整備士という仕事には、こういう瞬間がある。
誰にも伝えきれないけど、
「やっててよかった」と思える瞬間が確かにある。
だから僕は、これからもこの仕事を誇りを持って続けていきたい。
そして、そんな経験を、次の世代にも伝えていきたい。
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